地球ができた遠い昔、原始の海で生物が生まれました。海の生物が陸地へ上がり、海水から栄養分を得ていた生物は、自分の体の中に海水と似た成分の液体(血液)を持つようになりました。海水は、なめると塩辛いですね。人の血液の中にも塩(ナトリウム)が含まれていて、これが増えすぎると高血圧などの病態を引き起こします。今回は「塩」のお話です。
東播磨地域の血圧の状況は?
兵庫県がまとめた「平成25年度特定健診データ解析報告書」では、特定健診検査項目の分析を行っており、その項目の中に「血圧」があります。特定健診といえば、おなか周りを測る健診ですね。
地域間を比較するための統計的処理を施した結果を見てみると、東播磨地域では高砂市の男性と稲美町の男性・女性に高血圧の方が多いという結果になっていました。
それ以外の人たちは「減塩に気をつけなくても大丈夫なんだ!」と安心したいところですが、そうではないのです。「血圧を下げる薬服用者」で見ると加古川市の男性・女性、高砂市の男性の多くが、血圧を下げる薬を服用していることが明らかになっています。
出典:「平成25年度特定健診データ解析報告書」(平成29年3月発行)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf17/kaiseki.html
東播磨の食塩摂取量はどうなっているの?
「塩を摂り過ぎると血圧があがる」、「血圧が高いから減塩しましょう」は、よく聞かれる言葉ですが、東播磨の人は塩を摂り過ぎているのでしょうか。
最近の調査結果を見てみましょう。
1日あたりの食塩摂取量 | |
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東播磨地域の食塩摂取量 (平成28年度ひょうご食生活実態調査報告書) | 10.4g 男性:10.49g 女性:9.6g |
兵庫県の20歳以上の人の平均摂取量 (平成28年度ひょうご食生活実態調査報告書) | 9.6g 男性:9.99g 女性:8.83g |
日本人の平均摂取量 (平成29年度国民健康・栄養調査報告) | 9.9g 男性:10.8g 女性:9.1g |
出典:平成28年度ひょうご食生活実態調査報告書
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf17/kf17/28shokuseikatu-jittaichousa.html
出典:兵庫県webサイト 平成28年度ひょうご食生活実態調査報告書 結果の概要PDF 41ページ
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf17/kf17/documents/2802eiyouchousa-kekkagaiyou.pdf
これらと比べても、東播磨地域ではちょっと食塩を摂り過ぎている人が多いようです。
理想的な食塩摂取量はどのくらい?
では、理想的な食塩の摂取量はあるのでしょうか?気になりますね。
厚生労働省では、5年に1度、日本人の望ましい食事摂取量のあり方を示した「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書を発表しています。
これは現時点での科学的根拠に基づいて、日本人にとっての望ましい栄養の摂り方を示した国内唯一のガイドラインです。
現在の食事摂取基準は2015年版ですが、そこでは食塩相当量の目標値として成人男性8g/日未満、成人女性7g/日未満と定めています。
この数字は、WHO(世界保健機構)がすすめている摂取量の上限5g/日と過去の国民健康・栄養調査の摂取量の中央値との中間値をとって目標量として定められました。理想と現在の状況の中間をとって決めた、目標として定めた数字になります。
東播磨の食塩摂取量10g/日は、食事摂取基準で定められた目標量と比べても多いことがわかりますね。
ひょうご食生活実態調査報告書では、1人1日あたり食塩摂取量の分布をみています。その結果、日本人の食事摂取基準2015年版における目標量(成人男性8g/日未満、成人女性7g/日未満)を超えている人は、男女ともに約7割でした。どの年代も今より1日2g程度の減塩が必要です。
また、どんな食品から食塩を摂っているのか分析した結果から、調味料類の占める割合が約65%となっており、なかでも“しょうゆ・塩”の摂取量は年々減少しているが、“その他の調味料”の摂取量が増加しています。
目に見えるしょうゆや食塩は使いすぎないように気を付けているけれど、「○○料理の味付けの素」といった複合調味料や、見えない塩は見逃されがちなのかもしれませんね。
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000041824.html
減塩は誰が取り組むの?
では、誰が減塩すべきなのでしょうか?人は血管とともに老いると言われますが、ほとんど食塩をとらない民族では、高齢になっても血圧が上がりにくいそうです。
今より1gでも減塩することは、10年後、20年後の血圧が上昇する割合を抑えてくれます。減塩は大人がするものと思いがちですが、実は、こども達にも、減塩が必要です。
こどもの減塩とは、『素材の味を活かして、薄味が美味しいと感じる味覚を育てる』ことです。素材を味わい、食塩に頼らなくても美味しいと感じる味覚は、将来にわたって、その人の血圧を守ることになるのです。
こどもがご飯を食べないからと言って、ご飯が見えなくなるほど「ふりかけ」をたっぷり振りかけていませんか。最初に味もみないで、野菜サラダやおかずに「マヨネーズ」や「ソース」をたっぷりかけていませんか。
加古川健康福祉事務所では、管内の幼児保育関係者と連携して、幼児期からの減塩に取り組むために、食生活の工夫をまとめたリーフレットを作成しました。是非、ご覧ください。

大人の減塩 「ゲン塩ジャー」
それでは、大人の減塩はどうすればいいのでしょうか?食塩のとり過ぎは、高血圧の原因になるだけではなく、脳卒中、心臓病、腎臓病などの生活習慣病や胃がんにかかりやすくなります。これらの病気を予防するため、また進行を少しでもくいとめるためには減塩した方がよいのです。
兵庫県と(公社)兵庫県栄養士会では、県民の皆様の減塩生活を支援するためのリーフレットを作成しました。その中から、減塩するための工夫8か条を紹介します。
減塩するためには
①1日の塩分摂取量を知りましょう(目標量:男性8g未満、女性7g未満)
②食品パッケージの栄養成分表示を活用し、食塩量の少ないものを選ぶようにしましょう。
③調味料は計って使いましょう。
しょうゆやソースは『かける』より『つける』方が使う量が少なくてすみます。
減塩商品を使う場合も、計量しましょう。
味覚を頼って美味しくなるまで使ってしまったら減塩商品を使う意味がありません。
減塩商品にはカリウム塩を使ったものもありますので、腎臓病の方は食品表示や栄養成分表示を確認し、注意しましょう。
④うどんやラーメンなどの麺類では汁の飲み方に注意しましょう。
塩分の半分以上は汁に含まれます。
味付けごはんと麺類の重ね食いも塩分が多くなりがちで注意が必要です。
⑤天然のだし(昆布や削り節、干ししいたけなど)の旨みは塩味の引き立て役です。
だしをきかせて、汁物、煮物を薄味で美味しく仕上げましょう。
⑥酸味は塩味の引き立て役です。
酢、レモンやゆずなどの柑橘類、トマトなど使うと、さわやかな酸味がアクセントになり、食塩量を減らすことができます。
⑦カレー粉やこしょう、唐辛子、にんにく、ねぎなどの香味、辛味が味の引き締めに。
香辛料をうまく効かせれば、料理のアクセントになります。
⑧焼きたて、揚げたての香ばしさで美味しく。
仕上げにしょうが、青じそ、みょうがなどの薬味を添えれば、薄味でも美味しく食べられます。
出典:(公社)兵庫県栄養士会の「ひょうご減塩生活」
http://www.eiyou-hyogo.or.jp/
出典:ひょうご食の健康運動 「減塩」
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf17/hw03_000000001.html
栄養成分表示を活用しましょう
食品のパッケージには食品表示法に基づいて、栄養成分表示がされています。2020年4月から、加工食品等の栄養成分表示が義務化されます。
現在の「塩」に関する表記は、はナトリウム量で記載されているものと食塩相当量で記載されているものがあります。2020年4月からは全て食塩相当量に統一される予定です。
ナトリウム量で表示されている場合は、以下の計算式で食塩相当量を計算しましょう。
【食塩相当量の計算式】
ナトリウム(mg)×2.54÷1000=食塩相当量(g)
栄養成分表示を見て、食塩相当量を確認するようにしましょう。
出典:栄養成分表示など(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/「栄養成分表示を活用して、バランスのよい食事を心がけましょう!(若い女性向け)」PDF
「栄養成分表示を活用して、メタボ予防に役立てましょう(中高年者向け)PDF
「いつまでも元気でいきいきと!栄養成分表示を活用して、日々の食事のパワーアップ!!(高齢者向け)PDF」
「表示を確認して、保健機能食品を適切に利用しましょう(保健機能食品)」PDF
出典:食品の栄養成分表示(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf17/hw13_000000037.html
減塩で注意すること
平成28年度ひょうご食生活実態調査結果では、男性、女性とも全年代で、食事摂取基準の食塩の目標量をオーバーしていました。どの年代も今より1日2g程度の減塩が必要です。
ただ、注意しなければならないのは高齢者とご病気でお薬等を服用中の方です。
高齢者は舌の味を感じる味蕾も衰えてくるため、味を感じにくくなります。そのため味付けも濃くなりがちです。このような場合は、全ての料理の味を濃くするのではなく、味にメリハリをつけて、あまり目標量にこだわらずに、まずは美味しく食べることを優先しましょう。食べられないことで、フレイル(虚弱)やサルコペニア(筋肉減少症)になることを防ぐためです。
また、ご病気でお薬を服用中の方は、自己判断で減塩に取り組むのはやめましょう。必ず主治医や管理栄養士にご相談ください。その上で減塩が必要になったなら、ご紹介したリーフレットなども参考に減塩に取り組んでくださいね。
みんなで減塩 いつまでも健康に過ごすために
減塩に向けたプラス1の取り組みを実践してみませんか。
『素材の味を活かして、薄味が美味しいと感じる味覚を育てる』ことは、こども達に、未来の健康をプレゼントすることになるのです。
WEBサイト“ヒガシハリマ食堂”では、薄味で美味しいレシピを多数紹介しています。
ぜひ、つくって、食べて、みんなで減塩に取り組みましょう。感想もお寄せくださいね。